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想像ん中じゃ無限のストーリー

「ご飯を噛み続けると甘くなる」

という言葉を、ふと思い出す。確かに、炭水化物は唾液で消化されて云々、という事実は、中学校の理科の授業でも習った気がする。しかし、私は今まで一度たりとも、ご飯が口の中で甘くなる感覚を経験したことがなかった。私はご飯をあまり噛んでいないのだろうか。それとも私の味覚がおかしいのだろうか。確かめてみることにした。確かめたくなった。確かめなければいけない気がした。
そして、未だ味わったことのない、口の中で繰り広げられるご飯の化学反応を経験するため、私はご飯を噛み続けてみた。

私にはお気に入りの位置があった。食堂から入って一番奥の、一番端の席である。そこからは、学生食堂や武道場、体育館を正面に見ることができた。昼食時なら、学生食堂から出てくる学内カップル、売店へ行く女子学生、バスケットボールを片手に体育館へ入っていくスポーツ少年、などを見つける。夕食時には、辺りはすっかり闇で覆われてしまうため、真っ暗で学生食堂も体育館も見えなくなってしまう。代わりに、外と食堂とを隔てるガラス戸が、ちょうど鏡になり、食事をしている私の醜い姿や、私の後方に座って、くだらない話をしている連中の様子が見えるのである。

今日もまた、その位置に座っていた。食堂が混んでいる時は、別の場所に座らざるを得ない場合もあるが、今日の夕食時の食堂は、幸いにも空いていた。
私の周囲に人はいなかったため、早速ご飯を一口分、口に放り込み、しばらく噛むことにした。

何も変わらなかった。ただ口の中で米粒が、これでもかと言わんばかりに細かく磨り潰され、唾液と絡み合って、まるで餅のようになっただけであった。甘さがどのくらい変化したのか、全くわからないまま、いつの間にか口の中からドロドロになったご飯粒と唾液の混合物は消え去っていた。

結局、私の味覚がおかしいのか、それともご飯の噛み方が足りないのか、全く解決できなかった。ご飯が甘くなる、というのはこういう事ではないのだろう。あるいは、甘くなる程度や感じ方にも個人差があるのだろう。私は自分に言い聞かせるように、そう結論づけた。
もう一度挑戦しようという気にはならず、残りのご飯やおかずは普段どおりに平らげた。

検証失敗に終わり、心がすっきりしなかった。辺りを見回すと、部活終了の時刻が近づいてきたからか、人が少しずつ増えてきていた。私はさっさと食事を済ませ、食器を載せたトレーを出口手前にある返却口へ返した。すると、中には、この食堂で働く、いわゆる「食堂のおばちゃん’s」の一人である女性がいた。彼女は、なんと私と同い年で今21歳なのだと、以前私が一番最後まで残って食べていたときに話をしてきた。要するに“タメ”である。

食器を返却すると、彼女はとびきりの営業スマイルで、私に「お疲れさまでした〜」と声を掛けてきた。私は「お疲れさまで〜す」と、半ばやる気の無さげな声で応え、食堂を出た。

空を見上げると、雲が出ていて星は見えなかった。細い三日月だけが、弱々しく光っていた。しかし、私の心はいつの間にかすっきり晴れ渡っていた。気が付けば、ご飯の甘さを検証していたことはすっかり忘れ去っていた。

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